しゃべってるじゃないか!声がきこえる「テレフォン」

 

電話を発明したことで知られているアレクサンダー・グラハム・ベルは、電信の技術で人間の「声」を伝えられるのではないかと考えた人だ。電気のオンとオフで伝える「モールス符号」を受信する方法の一つとして、受信側で電気が伝わってくるのを「音」にしてききとる方法があった。電信で「声」を伝えられるのではないかという着想は、ベルが音声の専門家だったということもあるが、同じような発想を持っていた人は、当時、ベルの他にもいたようだ。1876年にベルが「テレフォン」の特許を出願したときには、このように書かれていた。

 

「音声その他の音を、電信技術によって送信するための方法、および機器」

 

ベルの「テレフォン」は、電信によって声を伝えることができるというもので、すでにあった電信のための線を「テレフォン」として使うことができる。新しい技術が、それまでにあった技術を流用したり、拡張したりする発想から生まれてくることがよくある。テレフォンも、全て一から作られたのではなく、電気で速く伝えることと、遠くへ伝える(テレ)という部分は、電信(テレグラフ)から受け継いでいる。

テレフォンの独自性は、「ことば」や「音楽」としてきこえるように音を伝えることにある。たとえば、ベルが「テレフォン」を実演して見せたとき、そこにやってきたブラジルの皇帝ドン・ペドロ二世が「しゃべってるぞ!」と言ったという逸話がある。「ことば」が伝わったとき、目の前の箱のような機械が「しゃべる」かのように感じるのは、今でもよく起きることだ。このときにペドロ二世に同行していた有名な科学者のウィリアム・トムソン(ケルヴィン卿)は、声が伝わったことをすぐに伝えようとして、つい走り出してしまったといわれている。ベルの「テレフォン」が声を伝えるものであるということは、実際にその音声をきくことによって、すぐに理解されたらしい。

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キャプション:テレフォンを発明したベルは、離れた場所の間で「声」や「音楽」が伝わるのを人々の前で見せていた
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セイレム(下)から「テレフォン」で伝わってくる音声を、ボストン(上)にいる人がきいているところ

 

しかし、声で「ことば」をすぐに伝えるということは、どういう目的で使われるのだろうか。ベルは、電信の会社にテレフォンの事業を売ろうとしたが、断られてしまった。「ことば」や「音楽」がきこえるという「テレフォン」の魅力的な特徴は、人々に驚きを与えはするが、その反面、おもちゃを使ったお遊びのように見られがちだった。技術を魅力的に見せるには効果的ではあっても、社会における実用性からすると、声を伝える技術の使い方は、はじめからはっきりとしていたわけではなかったのだ。情報が伝えられる速さだけで考えれば、モールス符号を伝える「電信」でも十分ではないのか。わざわざ「声」で伝える必要はあるのだろうか。そのように考えられてもおかしくはなかったのだ。
「ことば」や「音楽」がきこえてくると、「テレフォン」がどういうものであるかは、すぐに理解される。しかし、伝える方にとっての「速さ」の利点ではなく、伝えられた音声をきいた人が「ことばとしてきこえてくる」ということを理解したのである。それは、「ラジオ」をきくときに感じられるような、音声の生々しさが感じられるようなことだったに違いない。