とにかく速い! 電気で伝える「電信」

 

電話で話すことができなかった時代でも、情報を何かに置き換えて、すぐに伝える方法があった。たとえば、目で見てわかる合図や信号にして、何らかの情報をすぐに伝えることができる。合図や信号が何を示しているかを決めておかなくてはならないが、声が届かない距離でも、望遠鏡で確認することができれば、大事な情報をすぐに伝えることができる。「狼煙(のろし)」というのは、煙を上げて合図を伝える。「手旗信号(てばたしんごう)」や「腕木信号(うでぎしんごう)」は、腕の「かたむき」や「かたち」などで伝える。この方法で何度もつないで伝えていけば、長い距離の伝達も可能だ。

お互いに見えないところにいるときには、メッセージを運んでもらう方法がある。人から伝言を頼まれることはよくあるだろう。メッセージを文字にして書き留めた「手紙」を誰かに運んでもらったり、相手に渡せるようにしたりするのも同じような方法だ。メッセージを誰かに運んでもらう場合、いつメッセージが伝わるかは、移動や配送の速さ次第だが、合図や信号で伝える方法に比べて、詳しい内容を言葉で伝えることはできるだろう。

 

 

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狼煙(のろし)
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手旗信号(てばたしんごう)

 

18世紀に電気が速く伝わることが科学者の実験で知られるようになり、19世紀には、電気を使った仕組みでメッセージを伝える「電信」が実用化された。電信は、電気が伝わる線をつなげることによって、遠く離れた場所でも情報をすぐに伝えることができる。最もよく知られているのが、電気の「オン」と「オフ」の切り替えで生じる、「長い」と「短い」の組み合わせによって文字を伝える「モールス符合」だ。

電信は、「鉄道」の線路に沿って使われるようになった。鉄道は、線路でつながり、網目のように広がっていく。電信は、鉄道を運行するための、時報(じほう)、警報、信号、連絡などに使われた。時報は、地域でバラバラだった時刻を統一して「標準化」した。1845年にはイギリスの鉄道で、電信による情報をもとにして、ロンドン行きの列車に乗った殺人犯の容疑者が逮捕されるということがあった。鉄道に乗ると、決められた時間に移動していることがわかってしまうのである。

鉄道では、起きていることがすぐに伝えられるようになったが、鉄道の使い方は「時間」に基づいた考えによるものだった。鉄道の利用者にとっては、電信による「標準の時間」の時刻に合わせて列車が運行されていることは、「所要時間」や「遅れ」がわかることを意味した。人々は、電信によって運行される鉄道を利用しながら、移動にかかる時間の節約をして、時間に正確に動こうとした。

新聞も、電信を利用することによって発展した。電信で情報を伝える速さを利用して、報じられる内容の「新しさ」を競うようになっていく。ただし、電信は、送信するにも受信するにも専門的な設備と知識が必要だった。そのため、新聞のために電信で情報を提供する「通信社」が生まれた。各地からの情報がすぐに「集められる」ということにも「電信」は使われるようになるのだ。電信は、速く届けられる手紙のような「速さ」があったが、人々は、株価やスポーツの速報のような、いま「何が起きているのか」の情報を集めようとした。

電線がはりめぐらされることによって、電信、鉄道、新聞、電力供給などが、全国的な「システム」になっていった。「電信」は、すぐに情報が伝えられる速さだけでなく、情報が伝えられる「網の目」にもなったのだ。その「網の目」は、時刻の「正確さ」や情報の「新しさ」を求めるような、人々の考え方とともに広がっていった。電気で情報を伝える「速さ」の意味は、人々の考え方によって変化していく。その変化の先に、声を伝える「テレフォン」、そして「ラジオ」がある。

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1890年ごろのニューヨーク 電信、電話、電力供給などの「電線」でいっぱいになっていた
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スウェーデンのストックホルムにあった「電話線の塔」(1887年から1913年までのころ)

出典:Tekniska muset(スウェーデン国立科学技術博物館)
https://www.flickr.com/photos/tekniskamuseet/6838150900/in/album-72157629589461917/