まるで「そこ」にいるみたい!いっしょにきこう!

 

声を伝える「テレフォン」には、二つの大きな可能性があった。電信のように一対一の間ですぐに伝える「通話」という使い方と、もう一つは、多くの人に同時に伝える使い方である。

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劇場から多くの人に伝えられるテレフォン
[図作成:瀬野豪志]

 

たとえば、劇場の中を外から聞くことができる「テアトロフォン」というのがあった。「テアトロフォン」は、劇場の外につながっている受話器がいくつもあって、今まさに演じられている芝居や音楽が、劇場の中にいるかのように聞こえてくるというものだ。1881年にパリで開かれていた国際電気博覧会で展示されたときには、オペラ座とテアトル・フランセからの音声が伝えられて、とても人気があったといわれている。ただし、自宅から「テアトロフォン」を通して劇場の様子を聞くことができたのは、裕福な人たちだけだった。パリ、ロンドン、ニューヨークなどの都市では、ホテルのロビーやお店などに「テアトロフォン」の受話器が設置されているところがあり、コインを入れると5分間だけ劇場の様子を聞くことができた。

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「交換局」を介して一対一でつながる「通話」
[図作成:瀬野豪志]

 

多くの人に同時に伝える使い方は、「通話」のための回線網が広がることによっても可能になっていた。「通話」は、一対一の間をつなぐ使い方であるが、利用者が増えると「電話局(交換局)」を介することによってそれぞれの利用者の間をつなげるようになった。このような電話局を介した回線網ができると、ある一つのところから伝えられる「ことば」や「音楽」を、多くの人が同時に受話器をとってきく、という使い方もできるようになる。

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あるところからの声をみんなが同時にきく
[図作成:瀬野豪志]

 

「テレフォン」は、考え方を変えれば、全く違った使い方になる。同じ回線網を使うにしても、いろんな使い方を重ねて同時に行うことができる。全国的な回線網になっていく使い方もあれば、地域の独自の回線網という使い方もある。施設や室内に特別に配線して「マイク」や「スピーカ」を設置するという使い方もある。

しかし、多くの人に同時にきかせるような使い方は、いつでもどこでも行われるようなことではなかった。博覧会や開通式のように、電話会社が「テレフォン」を宣伝するためのイベントや、「通話」のオマケのような使い方が多かった。多くの人に同時に伝える使い方は、劇場やイベントを伝えるような「そのとき限り」のことを伝えるだけでなく、どのような人々にきかせるのかについての考えがなければ、毎日何かを伝えるための独立した事業として成り立たせることはできないのだ。

多くの人々が受話器を持っていたとしても、それを同時にきくことができる可能性があったとしても、まだ見えていないきき手がいることを考える人がいなければ、多くの人に同時に語りかけるような「放送」にはならないのである。